マイクロソフトのファーストパーティ AI スタックは、まさに転換点を越えようとしている。すべてのレイヤーが本番運用または公開プレビューに到達したのだ。MAI ファミリーは、マイクロソフト自社の Maia 200 シリコン上でゼロから学習され、OpenAI・Anthropic・その他サードパーティラボからの蒸留は一切行われていない。Build 2026 での発表から実運用への移行まで、わずか 3 か月足らずだった。ベンダー依存関係を整理している CTO にとって、問いはもはや「マイクロソフトに自社モデルはあるのか」ではなく、「その品質はどれほどで、何を標準化すべきか」である。
今週は、MAI-Thinking-1 の公開プレビュー、MAI-Code-1.1-Flash と MAI-Image-2.6 の経済性、2 つのハードな移行期限、そして確定した Phi Silica から Aion への移行を取り上げる。
MAI-Thinking-1:完全自社製フロンティア推論モデルの第一号
8 月 12 日、MAI-Thinking-1 が Microsoft Foundry で公開プレビューに入った。マイクロソフト初の完全ゼロから学習したフロンティア推論モデルである。アーキテクチャはスパース混合専門家(MoE)で、総パラメータ約 1 兆、アクティブ 350 億、コンテキストウィンドウ 256K。
自己申告の数値は強い。AIME 2025 で 97.0%、AIME 2026 で 94.5%、SWE-Bench Pro で 52.8% と Claude Opus 4.6 に並ぶ。また、1,276 タスクにわたる Claude Sonnet 4.6 とのブラインド嗜好比較で勝利したとも主張している。
エンジニアリングチームへの正直な注意点:独立したベンチマークはまだ少ない。Bloomberg と ByteIota による初期の第三者分析では、実利用において MAI-Thinking-1 は DeepSeek V3.2 とほぼ同等とされている。これは否定ではない。文脈である。公開プレビューの意味は、ベンダーの数値を信じるのではなく、Foundry 上で自社の評価スイートを実行できるようになった点にある。
MAI-Code-1.1-Flash:ファーストパーティコードモデルの経済性
MAI-Code-1.1-Flash は 8 月 11 日に GA となり、現在では全 GitHub Copilot ティアのデフォルトコーディングモデルである。注目はコストだ。入力 $0.20/100万トークン、出力 $1.20/100万トークン。初代 MAI-Code-1-Flash 比 75% の削減で、トークンストリーミングは 25% 高速化、タスクあたりのトークン消費は 25% 削減された。
能力向上も価格と同じくらい重要だ。MAI-Code ライン初のネイティブ画像入力により、スクリーンショットからコードへのワークフローが可能になった。SWE-Bench Verified は 72.6% に上昇、Terminal-Bench 2.1 は 22% 増の 62.9%、.NET タスクは 15% 改善。内部の ScreenShot2WebApp スコア 42.1% は、ビジョンコーディングの道のりがまだ初期段階であることを示しているが、方向性は明確だ。
非推奨の注意:MAI-Code-1-Flash は 9 月 10 日に廃止される。プロンプトや評価を固定しているなら、今週中に移行しよう。
MAI-Image-2.6:アリーナランキング 2 位
MAI-Image-2.6 は 8 月 10 日にリリースされ、すぐに Arena のテキストから画像へのリーダーボードで 2 位を獲得。Google、Meta、xAI を抑え、OpenAI に次ぐ位置だ。画像編集では 3 位。2.5 比で総合 Elo +79、テキストレンダリング +91 は、タイポグラフィ、ポートレート、フォトリアルな商業出力における実質的な品質向上を反映している。
CTO が最も注目すべき数字は、本番環境で GPT-Image-2 比 84% の GPU コスト削減というマイクロソフトの報告だ。これは Maia 200 の共設計のストーリーであり、シリコンとモデルを一緒に作るというもの。MAI-Code の値下げと同じパターンである。ファーストパーティの経済性は、マーケティング上の主張ではなく、構造的な優位になりつつある。
専用セキュリティ:MAI-Cyber-1-Flash
MAI-Cyber-1-Flash は 8 月 3 日から Project Perception 経由で公開プレビュー中。汎用 LLM を向けるのではなく、タスク向けに学習されたモデルで脆弱性を検出する、専用セキュリティ AI へのマイクロソフトの参入だ。セキュリティチームにとってこれは「何でもファインチューニング」路線へのファーストパーティの回答である。セキュリティ特化の学習を施した専用モデルを、Copilot のオーケストレーションレイヤー経由でルーティングする。
音声と文字起こし
MAI-Voice-2 は GA で、15 言語と短いサンプルからの声の複製に対応。MAI-Voice-2-Flash は公開プレビューで 2 倍の速度、32% 低いコストを提供する。MAI-Transcribe-1.5 は 43 言語に対応し、競合比 5 倍の速度を主張している。注目すべきは、全二重の MAI Realtime 音声モデルが MAI Playground で発見されたが、まだ公式発表されていないことだ。今後の方向性を示すシグナルである。
Phi-4:オープンウェイトのエッジポートフォリオ
Phi-4 ファミリーは、業界で最も包括的なオープンウェイト SLM ポートフォリオであり続けている。MIT ライセンスの 7 バリアント、3.8B から 15B パラメータに及ぶ。最新メンバーの Phi-4-reasoning-vision-15B(2026 年 3 月)は、SigLIP-2 ビジョンエンコーダと推論バックボーンを組み合わせ、スクリーングラウンディングをサポートし、推論モードをオンデマンドで切り替えられる。同サイズで最良のオンプレミス推論ビジョン候補だ。
顧客との会話で繰り返し出る数字が 2 つある。Phi-4(14B)は MMLU 84.8% で Llama 3.3 70B 級に並びながら VRAM は 4〜5 分の 1、Phi-4-mini(3.8B)は Intel Xeon 6 の CPU のみのモードで毎秒 1,955 トークンを維持する。データ主権やエアギャップ環境にとって、MIT ライセンスの Phi ウェイトより安価な AI 導入経路は依然として存在しない。
Florence-2:ハードカットオーバーまで 13 日
Florence-2 は引き続き Azure AI Vision Image Analysis 4.0 の背後にあるビジョンエンジンで、164 言語の OCR を含む 12 以上のビジョンタスクを単一のウェイトセットで処理する。マイクロソフトは Florence-3 を計画していないことを確認している。リリース速度より安定性を優先する姿勢だ。
重要な期限:レガシー Azure Vision API(v1.0–3.1)は 9 月 13 日にハードリタイアする。あと 13 日だ。旧 API を呼び出しているワークロードがあるなら、Florence-2 ベースの Image Analysis 4.0 SDK への移行が、このリストで最優先の項目になる。
Turing:事実上リタイア
2025〜2026 年に実質的なアップデートはない。MAI が Turing が担っていたすべての本番ワークロードを引き継いだ。アーキテクチャ図に Turing モデルがまだ残っているなら、その図はもはや歴史文書である。置き換えを計画しよう。
Aion 1.0:オンデバイス移行の日程が確定
Phi Silica から Aion への移行にハードな日付が付いた。Aion Instruct 単体テストは 10 月 1 日、Windows Insider 展開は 10 月 23 日、GA は 11 月 24 日。その時点で Phi Silica は小売デバイスから削除される。
Aion 1.0 Instruct は CPU・GPU・NPU のいずれでも動作し、専用 AI ハードウェアは不要。オープンウェイト化が予定され、Limited Access Feature トークン要件も撤廃される。Aion 1.0 Plan(14B、32K コンテキスト)はオンデバイスのエージェント型ワークフロー(推論、ツール呼び出し、ファイル管理、サブエージェントオーケストレーション)を対象とする。移行の注意点が 1 つ:既存の Phi Silica LoRA は Aion 向けに再学習が必要になる。
Copilot:ファーストパーティのオーケストレーションレイヤー
Copilot は依然としてマルチベンダーのオーケストレーターであり、タスク分類レイヤーが各インタラクションを最適なモデルにルーティングする。MAI はメール下書き、要約、表計算、コーディング、画像生成、文字起こし、セキュリティスキャンを担当。GPT-5.6 と Claude は複雑な多段階推論とクリエイティブ作業に残る。マイクロソフトの予測では、2026 年末までに大多数のコモディティ Copilot タスクが完全に MAI で実行される。この軌道に合わせてコストとデータ主権モデルを計画しよう。
アクションリスト
- 9 月 10 日までに MAI-Code-1-Flash を 1.1-Flash へ移行——75% コスト削減に加え画像入力対応
- 9 月 13 日までにレガシー Azure Vision API を Image Analysis 4.0 へ移行——ハードリタイア
- Foundry 上で MAI-Thinking-1 を自社評価——独立した数値はベンダー主張に勝る
- MAI-Image-2.6 の経済性を評価——大規模画像生成なら GPT-Image-2 比 GPU コスト 84% 減
- Turing 依存を監査し、Phi Silica LoRA 再学習を計画——11 月 24 日の Aion 移行に備える
Kevin Kaminski は、AI 導入戦略に特化したマイクロソフトパートナー Big Hat Group Inc. の創業者。マイクロソフト AI モデルエコシステムの継続的分析は https://x.com/kkaminsk で。